絵と文29/「ブラックボックスと番人」2020年

彼女は箱の管理と守りをしごとにしている。
これらは夢を見るための装置である。

箱それぞれに小さなラベルが貼られており、そこに“成分:記憶”と書かれている。
固有名詞を表す単語や、年代を表す数字も書かれている。

箱の中には文字や音楽、映像、光、影、誰かの楽しかったこと、誰かの悲しかったことなど、さまざまなものがたくさん入っている。
箱によって内容は変わるが、だいたいそのようなものがたくさん入っている。

彼女は先代の番人から
ーその内容の全てが夢を見るために使われるものだ
と伝えられていた。

これらの箱が誰に対してどのような時どんな風に使用されるのかについては、ここでは伏せる。
機密事項だから。

ーとにかく人は、ときどき夢を見なくてはならないのだ
彼女は先代の番人からそう伝えられていた。

その理由については
ーその方が健康にいいから
と伝えられていた。

ここに番人が置かれる理由については
ー1,装置の正しい使い方を知っている人が必要だから
ー2,装置を破損から守るため
ー3,装置を正しく修理・解体できる人が必要だから
と伝えられていた。

彼女は伝えられたことを前向きに鵜呑みにして、おおよそまじめに働いている。

番人がこの箱を自分自身のために使うことは禁止されている。
触れることは禁止されていない。
だから彼女は、しごとの閑散期になると箱の上で眠る。
すると正に見るべきであったと思える夢を見て、しかし泣きながら目を覚ますことが度々ある。
それはわけのないただの夢である。
たぶん。


相当フィクションです。

三人展「ゆれる影、うつる影、ふれる影」より
サイズ…15×15cm
画材…和紙、墨汁、アクリル絵具