絵と文33「つくりものの野と本物の仔羊」2023年

迷子の仔羊は自分が夢の中にいることを知っていました。

辺り一面すかすかのおもちゃみたいな景色。
大きな点みたいな太陽は、白いお空でかがやかない。
いも虫みたいな草は、根っこがない。
蹴った小石は、放っておいたパンみたい。
何より自分に四本足。
迷子の仔羊は夢見る前、たしかに二本足の動物だったのです。

仔羊はたずねたい。
「すみません。現実へ行きたいのですが、どう行けばいいのでしょうか」と。
しかし上手く発声することが出来ません。

それでも察しのよい一輪の野の花が
さ迷う仔羊を見かねて
親切にこう声をかけました。

「もしかして現実をお探しですか、あなた。
でしたらあの空の丸の方向へまっすぐ
池を見つけたら三角の方向へまっすぐ
向かってください。
その先に現実があります。
それは燃えており明るいので
すぐにわかると思います」

仔羊は、もの知りな花にお辞儀をすると
空に浮かぶ丸の方向へまっすぐ歩き出しました。

「ああそうだったそうだった。
現実は燃えているものだった。
なんだかなつかしい。
燃え尽きてすすだらけになっていないと
いいけれど、私の現実」
なんて思いながら。

・ ・ ・

2023年2月の個展「6つのしるし」
@ ON minor project (名古屋市)
より

画材 /
和紙、墨汁、アクリル絵の具

下段の絵 /
「チューリップを模したもの(S)」
ものしりな花。
親切な性格です。
昔は大木の一部だったそうで、見た目よりずいぶん歳をとっているのだとか。

・ ・ ・

この続きは忘れたころにいつの間にか始まるかもしれません。